煙草と間違い探し1

 

六本木の春。

いかにもな車からサングラスをかけた高身長がクラッチバックと共に降り立つ。

いいね、これからが夜の始まりだ。

 

あってないようなドレスコード

訳の分からないゲームにはすぐ飽きた。

最終的にVIP席で寛ぐのがデフォ。

今日も飲めないお酒を隣の先輩に全部回す。

それなのにちっとも顔色が変わらないんだ、

面白くないの。

ネクタイをほどくフリして首を絞めてみた。

怒られると思ったのに笑いながらキスされた。

「どした?」

思い通りにならなくてむしゃくしゃしたから煙草を一本折ってやった。

やっと怒られた。

終電で帰るシンデレラの遊び、ばいばい先輩また明日。

 

 

渋谷の夏。

横一列になってみんなで歩いた道玄坂

迷惑行為を繰り返した記憶だけがしっかりと残る。

 

爆音がただひたすらに心地よかった。

私にとってテキーラは3杯で致死量になると知ったのはこの頃。

飲めないお酒は全部こぼした。

勿体ないと怒ってくるうるさい奴には口移しで全部くれてやった。

若さだけを頼りにはしゃぎまくった日々のうちの1日。

この箱飽きたと騒音の中で叫ぶ声。

耳元での大声は鼓膜が破れるからやめて欲しい。

抜け出した2人は行くアテもなく夜の街に溶け込んだ。

「好きだよ」

薄っぺらい言葉に重すぎる愛をのせて

秘密の関係が始まる。

もう終電じゃ帰らなくなった。

煙草くさい朝に乾杯し、

始発電車に飛び乗り先輩の肩で眠る。

 

 

 

日吉の秋。

突然過保護になるから周りにバレかけた。

先輩が何かで儲けて羽振りが良くなり、

私はこの頃から1円も出さなかった。

 

ハブで飲み続けたカルーアミルク

今でも一番好きなままだ。

ちょっと酔いそうになっただけでもう飲むのやめなってグラスを取られる。

相変わらず先輩の顔色は変わらない。

新しくなったZIPPOで今日もマルボロを吸う。

なんでいつまで経ってもシラフみたいなツラ下げてるの。

少し離れただけで隣に無理矢理割り込んできて

飲まされそうになったグラスを横取りする。

私はある意味無敵になったのに終電で帰されるようになった。

「またあとでね」

シンデレラ復活だ。

 

 

田町の冬。

同じような毎日の繰り返しに飽きる。

大学も行かなくなった。

先輩が私がこれまであった中で一番簡単に「愛してる」と囁く人間だと気付く。

  

朝方に帰ってくる先輩はいつも煙草とお酒の匂いがした。

そのままベッドに潜り込んでくる。

頭を撫でられたら全部許してしまう自分が憎い。

部屋で煙草を吸わないでと言えばIQOSを取り出すから

IQOSをぶち壊した。

先輩は怒らなかった。

怒らない先輩が嫌で部屋を飛び出したこともあった。

不在着信を溜めて永遠既読スルーをかましても

それでも先輩は帰っておいでよと優しくLINEをくれたんだ。

物には感情をぶつけられる癖に私は先輩に何ひとつ本当のことを言えなかった。

浮気を知っていても黙るしかできなかった。

直面するのが怖くて目をそらし続けたまま

さよならを告げたんだ。

 

シンデレラを卒業した。

貰ったブランドものの時計もバッグも未練なくばいばいできたのに

ただ手紙だけは捨てられなかった。

誰にでも言っていた「愛してる」の言葉と共に。