熱が下がらない

 

外した時計をいつもベッドに置いたまま

立ち上がってタバコを探しに行く

 

薄暗い部屋で

タバコに火をつける仕草が

19の私には大人に見えた

 

タバコの先の炎が

赤く赤く光る度に

なんだか肺が苦しかった

 

 

苦い苦い犠牲は完璧に夜を纏って

同じことを繰り返す

 

灰が落ちても何も気にしなかった君は

一体何を考えていたんだろう

 

見て見ぬ振りをし続けた本当の答え

アイロンをかけたはずのシャツも

皺がつき知らない香りがしたんだ

 

背中に残した爪痕も

治っちゃったんだね

 

名前を呼ぶその声で縛り付けられた

甘い視線で閉じ込められた

 

火照る首元からなぞり墜ちゆくその手は

さっきまで誰の腰に添えられていたの

 

耳元で震えたスマホ

そのメッセージは何番目の人

 

どうでもいいよ、もうどうでも

 

感じた優しさはニセモノ

あれもこれも全部気の所為

 

誰でもいいなら私じゃない

敬語で会話したあの頃には戻れない

 

他人の顔してすれ違った新宿

ちゃんとサヨナラしたのかどうかも

今じゃ思い出せないね

 

 

貰った時計もバッグも

もうここには無いのと同じように

記憶も全部売り捌きたいなあ

 

私たちの思い出は幾らで売れる?

 

 

中途半端に残る若かった想いで頭が痛む

正気を取り戻さなきゃ

熱が早く下がりますように。