おやすみ

 

 

 

ここではないいつかの世界で同じ時に生まれてしまったならばすれ違うことのないように、すれ違っても振り返ることのないように、振り返っても声を掛けることのないように、声を掛けても抱きしめることのないように、と強く願った夜はいつも上手く息が出来ない

 

 

行き過ぎた優しさによって狂った運命の中で犯人探しをするだけ無駄だと分かっていながら手探りで真実を掴もうと必死な私は愚かで醜い

 

怖さを知らなかった初めての瞬間は遠い昔の記憶で今も残る愛されたいだけの幼さは独立した幸福を殺し不憫な自分の演出に全力を賭ける

 

大好きな誰かの役に立ちたいと願いながら盛大な迷惑をかけるこの人生の孤独の先に見つけた逃げ場でどんな言葉があれば私は満足出来るの

 

もう二度と思い出せない感情も風に揺れて舞った花びらも私が生きていた証でいて欲しかったのに誰にも知られることがなく溶けてしまったみたいだ

 

罪悪感と背徳感を履き違えた君は人が人を所有することを許さない時代で隠しきれなかった私の弱さを曖昧な言葉で蝕んでくる

 

この不都合な世界から存在がいなくなって初めて流した涙も震える声も本物だったと気付いてくれるなら私は喜んで姿を消してしまおう

 

ほっといてと強がったくせにずっと味方でいてくれた人と目も合わせられないままにもう頑張りたくないと冗談のような本音を零した

 

自制心で縛り上げた日々に何処にもぶつけられない苛立ちを募らせては酸素を吸いすぎた私は目眩に苦しめられながら痺れた指先で駄文を綴る

 

 

自分を変えてくれるのは自分ではなくきっと自分より大切な誰かの存在なのに自他の境界線をかき消してしまう過干渉に怯えて私は今日も他人に触れられないままうわべだけをなぞって月が姿を消してから気を失うように眠るんだ

 

 

 

おやすみ